火曜日, 8月 22, 2006

死の欲動 臨床人間学ノート

たまには好きな本のレヴューでも。

死の欲動 臨床人間学ノート 熊倉伸宏著

医学生向けに書かれた精神分析の書物だが、一般人でも十分に興味深く読むことができる。
第1部臨床編では、具体的な症例を時間軸に沿って追体験することにより、問題意識を育て、
第2部理論編では、フロイトの理論の発展、および、「死ぬ権利」をめぐる自殺の倫理学の理論展開がなされる。理論編は小此木啓吾や河合準雄の著作を読みこなしている程度の精神分析の素養が求められるかもしれない。
第3部臨床ノートでは、臨床を通じて著者が感じたことが、エッセイ形式で語られる。精神分析にとどまらず、価値相対主義についての論考なども興味深かった。
全体を通じて、治療者が患者を「治してやる」というのではなく、患者の自発的な改善を手助けするという姿勢、患者に対する暖かい共感のまなざしが感じられる、珠玉の著作である。